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研究テーマとその成果

1)持久性トレーニング後の体温調節能向上における血液量増加機構とその効果

  • 我々はヒトにおいて運動トレーニング中に糖質・蛋白質補助食品を摂取させ、血漿量を増加させると皮膚血管拡張能が増強することを認めた。そこで「ヒトにおける持久性トレーニングによる皮膚血管拡張反応の増強は血漿量増加による圧受容器の伸展反射による」という仮説を検証するために、トレーニング後に利尿剤によって血漿量をトレーニング前値にまで低下させた。その結果、血漿量の低下に応じてトレーニング後に増強した皮膚血管拡張能はトレーニング前値にまで復帰し、仮説を支持する結果を得た。この研究は大学院生の池川茂樹が中心になって実施し、The 36th International Congress of Physiological Science, Kyoto, 2009で発表し、J Appl Physiol, 110: 972-980, 2011に掲載された。
  • 暑熱環境下における糖質・電解質溶液摂取は血液量を回復し、皮膚血管拡張能を維持することが報告されているが、その血漿量回復は専ら溶液中に含まれる電解質によるものとされており、糖質の作用としては腸管における吸収速度を速めるだけと報告されてきた。一方、インシュリンは血糖濃度を調節するだけでなく、腎臓での電解質吸収を促進することが明らかなっている。そこで、このメカニズムが糖質・電解質溶液摂取による血漿量の増加に関与しているのではないか、という仮説で実験を行い、それを支持する結果を得た。この研究は助教の上條義一郎が中心となって実施し、第65回日本体力医学会、千葉、2010で発表し、Am. J. Physiol. 301: R824-R833, 2012, DOI: 10.1152.ajpregu.00588.2011に掲載された。

2)低酸素環境下睡眠時の「歯ぎしり」による昇圧反応

  • 我々は咬合による昇圧反応に歯根部の受容体が関与することを明らかにした。一方、睡眠時、特に低酸素環境では「歯ぎしり」をする人が多いが、これは無呼吸による低酸素症に伴う血圧低下の防御反応ではないか、という仮説のもとに実験を行い、それを支持する結果を得た。この研究は大学院生の岡田芳幸が中心になって研究を行い、結果をThe 36th International Congress of Physiological Science, Kyoto, 2009と第87回日本生理学会・シンポジウム「運動時の血圧調節:中枢と末梢のクロストーク」、盛岡、2010で発表し、J Appl Physiol 107: 531-9, 2009.に掲載された。

3)圧反射性皮膚血管拡張抑制の遠心性交感神経シグナルの同定

  • 暑熱環境下運動時の皮膚血管拡張反応が、脱水時などの低血液量によって圧反射性に抑制されることは良く知られているが、その遠心性交感神経信号は同定されていない。我々は交感神経信号の中に心周期に同期する成分を発見し、それが圧反射性皮膚血管拡張抑制の遠心性信号であることを示唆する結果を得た。この研究は、助教の上條義一郎が中心に行い、その一部をThe 36th International Congress of Physiological Science, Kyoto, 2009とInternational Sports Science Network Forum in Nagano 2009で発表し、J Physiol (Lond), 589: 6231-6242, 2011に掲載された。

4)Vasopressin V1a受容体遺伝子欠損マウスにおける自発性運動開始時の昇圧反応不全

  • 我々はV1a受容体のある遺伝子多型をもつヒトは運動習慣がつきにくいこと発見した。そこで、そのメカニズムを明らかにする目的で、同受容体欠損マウスを用いて自由行動下での血圧を連続測定した結果、運動開始時の昇圧反応が起こらないこと、それは大脳皮質活動による圧反射抑制の連携が阻害されることによって惹き起こされることを発見した。この研究は助教の増木静江が中心に行い、結果の一部をThe 36th International Congress of Physiological Science, Kyoto, 2009、第87回日本生理学会のシンポジウム「運動時の血圧調節:中枢と末梢のクロストーク」盛岡、2010、The Workshop on Probing the Future of Muscle Study in the Institute of Science and Engineering, Ritsumeikan Univ., 2010で発表した。結果は、J Physiol (Lond.) DOI:10.1113/jphysiol.2013.251876に掲載された。

5)加速度・気圧連続測定による傾斜地自転車走行時の酸素消費量の推定式の決定

  • 我々は、3軸の半導体加速度計と気圧センサーによって坂道歩行時のエネルギー消費量が精度よく測定できる機器(熟大メイト)の開発に成功した。今回は、この機器を用いて、坂道の自転車走行時のエネルギー消費量を測定するための推定式の決定を行ない、この式を用いれば、精度よく坂道自転車走行時のエネルギー消費量を推定することが可能となった。この研究は、大学院生の高橋祐二が中心となって行った。現在、論文作成中である。

6)遠隔型個別運動処方プログラムの開発

  • 我々は低圧低酸素環境における体温調節は皮膚血流よりも発汗によっておこなわれること、そのメカニズムとして、同環境下では平地に比べ筋血流量が増加し、そのためより多くの血漿水分が活動筋の毛細血管から漏出して血液量がより減少する結果、圧反射性に皮膚血管拡張が抑制されることを明らかにした。この結果に基づき、中高年者を対象に常念岳登山中に糖質・電解質溶液摂取によって血液量回復した場合、側鎖アミノ酸摂取によって活動筋の毛細血管における血漿水分漏出を防止した場合、それぞれについて心拍数を指標として体温調節反応への効果を検討した。その結果、糖質・電解質溶液の体温上昇抑制効果を認めたが、側鎖アミノ酸の効果は認めなかった。この研究は大学院生・研究員の宮川 健が中心に行い、その結果の一部を第65回日本体力医学会、千葉、2010で発表し、Eur J Appl Physiol,. DOI 10.1007/s00421-011-2057-2に掲載された。

7)臨床フィールドにおけるインターバル速歩トレーニングの応用

  • 骨粗鬆症治療薬とインターバル速歩トレーニングとの骨密度に対する併用効果の検証を行った。その結果、5ヶ月間の速歩トレーニングは大腿骨頭頸部の骨密度を3%増加させたが、これは併用群と同じ結果であった。この結果は骨粗鬆治療薬に比べ、速歩トレーニングの優位性を示唆する。この研究は研究員の森川真悠子が担当し、第65回日本体力医学会、千葉、2010で発表し、現在、論文作成中である。
  • 大腿骨頭置換術を受けた中高年女性を対象に4カ月間のインターバル速歩トレーニングの効果を検証した。その結果、同トレーニング群では、対照群に比べ、持久力、筋力、生活活動指標がより改善した。この研究は大学院生の森島 優が担当し、第65回日本体力医学会、千葉、2010で発表し、現在論文作成中である。
  • 脊椎圧迫骨折患者のリハビリレーションとしてのインターバル速歩トレーニングの効果を検証した。その結果、退院後、一定レベル以上の日常生活を含めた運動トレーニングが持久力、筋力回復に効果があることを示唆する結果を得たが、今後、適切な対照群を設定し、インターバル速歩トレーニングの優位性を検証することが必要である。この研究は大学院生の市原靖子が担当した。
  • 慢性変形性膝関節症の女性患者を対象に、水中におけるインターバル速歩トレーニングの有効性を検証した。その結果、水中では陸上に比べ無酸素閾値が上昇し、また歩行中の膝関節の痛みが軽減するため、高強度、長時間の歩行運動が可能になる。また、この無酸素閾値上昇のメカニズムとして、心臓への静脈環流量増加に伴って圧反射性交感神経性下肢筋血管収縮が抑制された結果と考えられた。さらに、この効果は、BMIの低い被験者の方が高いことが明らかとなった。これらの研究は大学院生の半田秀一が担当し、その一部は、The 36th International Congress of Physiological Science, Kyoto, 2009で発表し、現在論文作成中である。
  • 大学の体育教育におけるインターバル速歩トレーニングの有効性を検証する目的で、通常の共通教育の体育授業で3カ月間のインターバル速歩トレーニングを実施した。その結果、特に、一定のレベル以下の筋力、持久力しか持たない女子学生における有効性が明らかになった。この研究は大学院生の田邉愛子が担当し、International Sports Science Network Forum in Nagano 2009で発表した。
  • がん患者を対象に、8カ月間のインターバル速歩トレーニングの身体的、精心的効果を検証した。その結果、体力、生活習慣病指標の改善の他、精神的指標の改善を認めた。ただし、この精神的指標はうつ自己評価尺度(CES-D)には反映されなかった。この研究は大学院生の福田俊作が担当した。
  • うつ病患者を対象に、12カ月間のインターバル速歩トレーニングの身体的、精神的効果を検証した。その結果、トレーニング量の季節変動に1カ月遅れで睡眠効率、CES-D、血中中性脂肪の変化が連動する可能性を示唆する結果を得た。今後、例数を増やし、この仮説を検証する。この研究は、大学院生の鈴木 宏が担当した。

以上の研究は、信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学講座・信州大学山岳科学総合研究所との共同研究で行った。

8)ヒトにおいて運動処方効果の個人差を生む遺伝子の探索

  • 運動処方効果には個人差が存在する。これは個人の遺伝的背景が関与していると考えられている。我々は信州大学遺伝子研究コンソーシアムとの共同研究で、熟年体育大学事業参加者1,800名について、血圧調節、代謝調節、持久性体力に関与する遺伝子の多型について検索を行った。その結果、いくつかの遺伝子について運動処方効果の個体差を説明できる結果を得、J Physiol (Lond) 587: 5577-5584, 2009に掲載された。
  • 特に、その中でVasopressin V1a受容体多型(rs1042615)でTT型をもつ男性は全体の25%であるが、彼らは生活習慣病指標が高いが、インターバル速歩トレーニングをすれば、指標が他の多型のレベルまで改善すること、また、運動に対するこれらの指標の感受性も高いことを明らかにし、Hypertension 55: 747-754, 2010に掲載された。さらに、運動トレーニング前の生活習慣病指標が高い点については、生来彼らは運動トレーニングに対し「不精」な性格であるためで、その継続については彼らを飽きさせない特別な配慮が必要であることを示唆する結果を得、現在論文作成中である。
  • このプロジェクトには、我々の教室からは助教の増木静江、研究員の宮川 健、森川真悠子が参加した。結果の一部はInternational Sports Science Network Forum in Nagano 2010、The 3rd International Sports Sciences Symposium on “Active Life”, Waseda Univ., 2010.、The Workshop on Probing the Future of Muscle Study in the Institute of Science and Engineering, Ritsumeikan Univ., 2010で発表した。

9)国際共同研究

  • 我々の開発したインターバル速歩トレーニングを核とするe-Health Promotion Systemは「体力向上・生活習慣病指標改善のための運動処方をジムから解放した」点で国際的に高く評価されている。2008-2009年の米国のYale 大学医学部、Mayo Clinicとの共同研究(J Prim Care & Comm Health, 1: 104-110, 201に掲載)に続いて、2010年にはデンマーク王国・Copenhagen大学医学部のBente Pedersen教授との共同研究を開始した。彼らは2010年5月から100人の糖尿病患者を対象にインターバル速歩トレーニングを行い同年12月にその効果を判定する。そのシステムの立ち上げのために、2010年2月9-13日に教室から増木静江、大阪市大の岡崎和伸、キッセイコムテック(株)の山崎敏明が現地へ出張した。
  • この結果は2011年3月25日に信州大学で開催するThe 5th International Symposium and Progress ReportsにCopenhagen大学の担当研究者を招待し講演していただく予定であったが、3月11日の東日本大震災で中止になったので、その代りに2012年3月31日の第89回日本生理学会(松本)でのシンポジウム「運動と予防医療」で発表していただいた。これらの結果は、Diabetes Care Sept,12, 2012に掲載された。